いけない癖
3ヶ月が過ぎる頃、もちろん英語の勉強はまだまだなのだけど、せっかくこっちにいるんだからと、「ヨーロッパをバックパッカーしてみよっかな」って気になった。気になったらもう止まらない。
親にお願いして2ヶ月間有効のユーレイルパスを送ってもらった。(感謝)
このユーレイルパスというのはヨーロッパ内、有効期間中ヨーロッパ内の主要な列車乗り放題というもの。特別な路線や豪華な寝台列車などは差額をチャージされるが、基本これでどこでも行ける。
ミニマムな貧乏旅行は自分に似合ってる。それでも今この時にしか感じることにできない感覚を大切に。おっさんになったからでは失われてしまうであろう感動のしかたで素直に体験してみよう。
はじめはまだ寒い北の方から周って、南下することに。そうすれば厚手の服は途中捨ててもいいだろうし、寒いところは寒い体験をしてみたいし。
ということで、カムデンで古着のジャンバーをゲット。渡欧する前に友人にもらった栄養剤やもろもろを詰め込んだ。
1991年5月 出発
出発前夜、日本人仲間が送別会をしてくれた。とはいっても何かにつけて盛り上がりたい連中だったので、送別会という体の飲み会。酔いつぶれてどこでだれが寝ているのかわからない。
朝早くまだ暗いうち、みんなが酔いつぶれて寝ている。誰かを踏みつけないようにとそっと抜け出して、フェリーに乗り込んだ。
これからが俺の旅のはじまりだーと意気揚々とフェリーに乗り込めたわけでは、、、全くなく、二日酔いでグダグダな状態で這いつくばって乗り込んだという感じ。乗り込んだら安心して寝入ってしまった。
気付けばベルギーに到着。最悪の出発だ。
このとき決めたことがある。この旅の間はアルコールはなしにしようと。ヨーロッパは地ビールやワインの宝庫だし、それを介した楽しいこともたくさんあるだろうと思うけど、もっと純粋に色んなことを感じたいと思ったのだ。
May/2/1991
ここベルギーではじめてユーレイルパスを使うことになる。はじめての駅ではここからパスを使い始めますよーという日時のスタンプを打ってもらい、その日から2ヶ月間、ほとんどの列車に乗り放題ということになるのだ。
駅員のおじさんも「お前!ここがはじめてか!」みたいな笑顔になって、慎重にスタンプ押してくれた。満面の笑顔で「気を付けてよい旅を」とパスをわたしてくれた。一気に おー!俺の旅のはじまりだー! と気持ちが高まり熱くなった。高揚感
旅の概要
ユーレイルパスの有効期限は2ヶ月間。あんまり焦ってせくせくしたくもない。自由にその日の気分で、色んなことに身を任せていくようにしよう。
あんまり計画たてすぎても何が起こるかわからんし、なんか起こった方が面白そうだし。そんな気軽な旅にしようと思った。ただ最後はパリでゆっくり時間を取りたいなーとだけは決めていた。
この旅のもうひとつの大きな目標はできるだけ多くの美術館をめぐること。
イギリスでは美術館・博物館は無料!いついっても、どんだけ滞在しても無料!時間があるときはいつも美術館に行っていた。
やはり印象派ぐらいからの絵画がなじみやすい。
大英博物館。すごいんだろうけど、植民地時代にいろんな国から略奪してきた品々があったのだが、近年それぞれの国に返し始めていて、残っているのはガラクタだけ。と現地人に聞た。でもロゼッタストーンとか大変貴重なものをじかに見ることができる。
ナショナルギャラリーはドンピシャに素晴らしい。外の喧騒がうそのように一歩踏み入れると、そこは高貴な空間。ボンドとQが初めてであったのもここ。
テートギャラリーも通った。ターナーなどが充実。霧と煙としか描かれていないような絵から汽車が力強く走る音が聞こえた。
バックパッカー中、ヨーロッパ中の有名美術館は一通り訪れることは出来た。各美術館では特別な思い出がたくさんできた。
まず建物。荘厳な歴史的な建物に一歩踏み入れると、石でできた建物特有のひんやりとした空気に包まれる。
シーンと静まり返った高い天井の部屋のなかで、年期の入ったウッドフロアーのきしむ足音が響く。
また、広い壁一面に象徴的な絵画が一点だけ真ん中に掲げられていたり、空間を贅沢に使って、なんておしゃれな展示のしかた。
さあ、ここではどんな作品が僕を待っていてくれるのかという高揚感を胸に、一歩づつ歩みを進めるとてもゆったりとした贅沢な時間。
気になる作品の前では何時間いたっていい。遠くから、近くから、作品が語りかけてくる物語にどっぷり酔いしれる。
「あ!ここにいたんだね。」とお気に入りや有名な名画に出会えると、胸がつまる想いがする。
絵画は好きではあったが、じつはそこまで傾倒しているわけではないと思っていた。
しかしこの旅のなかでほんとに感動したり、笑顔になったり、心が揺さぶれる経験がきたのは、その数年前に交通事故で他界した親戚のお兄ちゃんが降りてきていたのではないかと思う。芸大の1年生の時に事故で他界、この美術館巡りはそのお兄ちゃんの夢でもあった。こんな風に感動を共有できてほんとによかったと思う。
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