床屋って...


 

あるお客様は言います。

 

「床屋さんの技術は気持ちがいい。

 特に床屋さんのシャンプーと顔そりは恍惚の極みであり、美容院にはない魅力です。

 シャンプーはわしわしと動く指の圧力が気持ちよく、この力強さは美容院のそれにはないものでしょう。

 そして顔そり。普段あんまり気にしない自分の顔が、熱い蒸しタオルで癒され、シェービングフォームがブラシでくるくると塗られ、剃刀は滑らかに肌を滑っていく、、、

 その顔そりの感じは、まさに優しき愛撫、恍惚のひと時です。

 一通り剃り終った後に、また蒸しタオルの蒸気がゆっくり肌にしみこんでいくと、この時間が永遠に続いてほしいとさえ思うのです。

 仕上げまでおわって、いすから降り立ったときには生まれ変わったような気持ちになっていて、気がつくと背筋がぴんと延びています。

 これこそ床屋さんを後にするときのシャッキリ感です。」  と。

 

 

 そうなんです!ここに重たいものぜーんぶ置いてってください。

仕事や家庭を最優先にして、ご自分の事はいつも後回し。へとへとになってがんばっているお父さん。

そんなお父さんたちの息抜きのできる場所として、ほんのつかの間のお時間ではありますが、大橋理容がありったけの技と心を尽くしておもてなしできるようにお迎えいたします。

 

スッパッとして、本来の優しい笑顔でいられると、ご家族や、周りも優しい気持ちになれますよ。

男が床屋に行かなければならない理由はなんだろう。演出家・河毛俊作が教えてくれた。

文・河毛俊作  https://www.gqjapan.jp/life/grooming-health/20150430/its-a-mans-world

 

戦争映画には必ずと言っていいほど、登場人物が髭を剃る場面がある。例えば、激戦の後、硝煙がたなびく中で小さな鏡に向かって顔中に泡立てたシャボンを塗りたくり、少し虚脱したような表情で西洋剃刃を使って髭を剃る。そんな兵士の姿からは虚飾が削ぎ落とされたグルーミングの本質が見えるようだ。

男にとって最前線で髭を剃ることは今日も生きているということを実感する行為と言っても過言ではない。

シェービングというのは男にとって神聖な儀式だ。祖父の時代、男たちは西洋剃刃を巧みに操って髭を剃った。僕が住んでいた家の洗面所にも西洋剃刃を手入れする為のコードバンの革砥がぶら下がっていて、西洋剃刃、陶器のシェービングマグ、ブラシなどが整然と並んでいた。小さな洗面台が幼い僕には神聖な儀式の祭壇に見えた。

西洋剃刃ではいい加減なシェービングは許されない。すぐに肌を傷つけてしまう。真剣な表情で鏡に向い、丁寧にしかし小気味良く西洋剃刃を操り、髭を剃る祖父の姿を見て、「大人になったら僕も同じことをするのかなぁ……」とぼんやり思っていた。

最近、美容院へ通うことが普通になっていた男たちが床屋に帰ってきていると聞く。それはとても良いことだ。床屋と美容院の一番の違いはシェービングが有るか無いかということに尽きる。シェービングは理容師にしか許されていない。単に髭を剃るだけなら電気剃刃で充分ということになるが、床屋で熟練の職人によるシェービングを体験することの心地良さを知らないのは、男にしか味わうことのできない楽しみを放棄するに等しい。床屋というのは男に残された最後の"聖域"だ。美容院が女性が美しさを"盛る"場所だとすれば、床屋は男が無駄なものを削ぎ落として本来の自分に帰る場所だと僕は考えている。

江戸時代の「髪結床」は一種の免許事業で理容の他に火事の見張りなど公儀の御用も務める場所で、町内の男たちの情報交換や社交の場であった。欧米でも床屋は男たちの寛ぎの場であり社交場であった。クリント・イーストウッド監督の『ジャージー・ボーイズ』の中でクリストファー・ウォーケン演じるパトロン的存在である街の顔役はいつも主人公を床屋に呼び出す。彼は椅子に座り白い布に覆われたままエスプレッソを啜っていた。その姿が何とも粋に感じられた。床屋で飲むエスプレッソはカフェで飲むそれとは違う格別な旨さだ。

昔は東京でも町内の床屋に毎日のように通う洒落者が結構いたと聞く。僕も家の近所に良い床屋があればそうしたいと思うくらい、床屋が好きだ。しかし、子供の頃親から床屋に行けと命じられるのはあまり嬉しいことではなかった。いや、寧ろ床屋には歯医者に対して抱く恐怖感に近いものを感じていた。後年、外科医のルーツは床屋だと知って妙に納得したものだ。それが今では最も好きな場所の一つになってしまった。子供の頃は気味悪いと感じた剃刃の刃がスーっと皮膚を滑る感触も今は心地良い。

BARBERとBARという2つのBは男を寛がせてくれる場所であり、男の人生に不可欠なものである。そして若い男性にとっては修業の場でもある。良い床屋が似合う男になりなさい……。