ローデンブルグ
城壁にかこまれたおとぎ話に出てくるような小さな町。
ヨーロッパの各都市・町は一つの塊になっていて、その都市・町から出ると、次の町までは平原や田園地帯になっている。だから町と町の間がはっきりしている。
日本のように街並みがずっと続いていて、知らぬ間に違う町に来ているということはないわけである。
このローデンブルグの町は古い時代の名残の城壁で囲まれており、それがきちんと残されている。
ここではユースホステルに宿を取った。同室になったのはなんと若い日本人。聞けば、グライダー飛行機の整備の勉強に来ているというではないか。
グライダーというのはエンジンを持たず、上昇気流のみを使って飛行するのりもの。エンジンを持たないので、飛び出すときは、凧揚げの要領でトラックに引っ張ってもらって上昇するのだ。
この青年と意気投合して、近くにグライダーの空港があるから見に行こうということになる。
ドイツ郊外の草原地帯を単線線路に沿って歩き出す。道中 彼は空を見上げながら、グライダーの魅力を語り、空に浮かぶ雲の説明をしてくれた。
これまでそんなふうに雲や空を眺めたことがなかった。空港近くまで来て草原に大の字にねそべって、どこまでも続く大空と、雲の間をおともなく鳥のように自由に飛ぶグライダーを眺めて贅沢な時間を過ごせた。
突然彼が「がまんできない!乗せてもらおう!」と管制塔めがけて走り出す。そんなうまくいくわけがないとついていく。ドイツ語ができる彼は管制塔の人たちと笑顔で談笑。なんとオッケーだよと!
それはほんとうに素晴らしい体験だった。
2人乗りのグライダーの前の席に乗せてもらい、後ろにプロのパイロット。滑走路につく。前方にはグライダーとワイヤーで繋がれたトラック。トラックが加速しだす。しかしなんの音もしない。フワッと機体が浮いたかと思うと、グッと上昇。ワイヤーが外され一気に大空のなかへ。
聞こえるのは風を切る音だけ。地平線まで続く草原と青い空の世界。カーボン機体の床一枚のその下は、もうなんにもないと思うと恐怖を感じるが、空を飛んでいるという感覚に圧倒される。
パイロットがハンドルを握ってみろと言う。変なことしてしまったらいけないと思い触れることさえしていなかった。軽く手を添えてみる。風を切っている振動が伝わってくる。グライダーを操縦するということはほんとに最小の装備で、大空を舞っているんだということがわかる。しまった、カメラを地上に忘れた。
ツアー旅行ではこんなハプニングに出会えることはないだろう。帰りはユースホステルの門限に間に合うよう全速力でもうダッシュ。空をとんだ高揚感のまま草原を走り抜けた。
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