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Day25 オーストリア

 さー、待った甲斐があった。

 まずは麓から大型ロープウェーでひと山越える。やっと雪が見えはじめる。もう6月だけどね。そこから小型のロープウェーに乗り換えさらに高い山を乗り越える。

 もうそこは別世界。空の青と大地の白だけの世界。テレビで見た、スキー番組で出てくる、あの景色である。

 雪質最高のパウダー。真っ白な世界。もう心のなかで叫びまくり。

 スキーセット一式とつなぎの簡単なウェアーを借りる。かっこよくはないけど、かかる費用はこれだけ。しかも日本よりずっとお値打ち。なんといってもリフト代は無料!! 押さえきれないワクワク感ではちきれそうに飛び出す。

 

 ロッジにもゲレンデにもそんなに人はいない。

意気揚々にリフトへ向かうが、なんか様子が変だ。

 リフトは動いているのだが、引っ掛かっているのが椅子状のものではなく、T字を逆さまにしたようなものがぶら下がっているだけ。日本では見ることがなくなった古いタイプのリフトだ。

 乗り場でT字の部分を引っ張ってきてお尻に当てる。スキーヤーは雪面を滑ってお尻の部分で引っ張ってもらって坂道を登っていくことになる。雪面と自分のからだとリフトの微妙なバランス感覚が必要になるわけだ。

 一旦乗り場の前で立ちすくみ、他の人がどのように使っていくのかを観察。よーしと、乗り込むが、1回目こけ、2回目しばらくいってこけ、おにいさんにチェといわれながら、なんとか引っ張ってもらってのぼりきる。。

 からだのあちこちに余分な力が入り、頂上につくまでにずいぶんな体力を使ってしまったようだ。

 

 が!! しかし!!! そのてっぺんに立ったとき。そこに広がる光景は、筆舌に表しがたい、大パノラマ。

 誰もいない、まだ誰も滑っていない、真っ白な大平原が目の前に!!「これ全部俺だけのもの!」

 スキー場といっても、なんにも整備はしていない。日本のスキー場にあるような、“ここからこっちへいっちゃだめ”みたいな柵もない。山そのまんまが、ずーっとつづいている。すべてが自己責任。変なところに入り込んで遭難しても、自分のせい。ちょと怖い気もするが、本来はこういうものなのかと思う。

 

 ロッジまで降りるだけでもそうとうな距離はある。経験したことのないパウダースノーにはしゃぎまくる。なんか滑りもスッゲー上手になった気がする。

 上から一本滑り降りてくるのだけで腹一杯になるぐらい大満喫。準備しておいたサンドイッチかぶりついたらすぐ2本目だ。

 

でも、滑ってくる現地人をみていると、男女共にほんとかっこいい。すべてが絵になる。「Hi」という挨拶の笑顔だけでもハリウッドか!と思ってしまう。

 

 

 2本目。リフトに引っ張られて頂上につく頃にはなんだか霧が立ち込めてきた。これは早めに滑り降りた方がいいかなと思っているうちに、 あれよあれよ、 なんと伸ばした自分の手の先が見えないほどに霧が濃くなってしまった。

 周りに人がいる気配は全くなく、濃い霧が耳元を通り過ぎる緩やかな風の音がするだけで、不気味なほど。さーてこれは困った。しばらく待ってもいっこうに晴れてきそうにはない。これはそろりそろりと滑り降りるしかないか。こんなハプニングも楽しむ余裕がまだあった。

 ほんとに少しずつ滑り出す。これは相当な時間がかかりそうだ。そういえば柵もないから変なところに入っていってしまったら遭難ということになるのかも。自分はもしかしたら相当ヤバイ状況にあるのかもしれないと気づいた。

 真っ暗ではないにしても、真っ白な中。誰の気配も感じない。大鉈を持った殺人鬼が突然目の前に出てきてもおかしくない状況。滑ることもできなくなり、スキー板をすりすりさせながら、一歩一歩そろりそろりと進めていった。

 どれだけ進んだだろうか、するとスキー板の先がなにかにコツンと当たるではないか。恐る恐る手を伸ばすとなんと ロッジの建物だった。「助かったー」

 さぞかし麓では、こんなひどい霧で、「あの日本人はだうなったか」と、騒ぎになっていることと思いきや、なんともないフツー対応をされ、「へ?」みたいな感じになった。自己責任、自己責任。

 

 カフェにてメル・ギブソンみたいなお父さんと、レイヤ姫のようなお母さんと、むちゃんこかわいいお子さまと暖かいコーヒーに癒さた。