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Day 32 スイス

インターラーケン

 ユングフラウヨッホ 3466m 

ヨーロッパで一番高いところにある駅(3454m)。富士山ぐらい高いところへ列車で行けるということなのだ。

 

 インターラーケン駅からまずはふもとの駅まで。ここから頂上のユングラウ駅まで登山列車となるのだが、この登山列車はユーレイルパスが使えない。チケット購入しなくてはいけないのだが、やはり安くはない。

 しかし始発だけは格安になっている。そのためこのふもとのクライネシャイデック駅で一泊して朝早く乗り込むことにする。この駅からはこれから登る?運んでもらう?ユングフラウヨッホが一望できる。

 この駅の駅舎の上が雑魚寝できるスペースになっている。夏のハイシーズンになればハイキングの観光客で一杯になるうらしいが、まだその季節には早いようで、このひろーいスペースに自分一人で寝た。

 

 朝早く、外がやたらに騒がしい。牛の大移動をしていた。皆あの大きなカウベルをぶら下げて低い音のベルをにぎわせながらゆっくりと歩いてゆく。のどかなで通り過ぎるまで30分以上眺めていた。

 日中、草原沿いを散策していると、絵にかいたような黒マントの羊飼いに出会う。アルプスの山々を背に広がる大草原で羊たちが牧草を食べている。その周りで牧羊犬が目を光らせて走り回る。そこにポツンと佇み、時折口笛を吹いて犬たちに指示を出している。静かに時間が流れる。

  今この時間。渋谷では町ゆく人々が世界最速であちこちに歩き回っているのだろうなと思いながら、その空間を堪能した。

 

 この牧羊犬はほんとに利口で、いつも羊飼いの顔色を見ながら忠実に仕事をこなしている。羊飼いの方と少しお話している間、じっとその横で座っておとなしくしていた。思わずかわいいなと手を差し出そうとした瞬間、羊飼いの方が真剣な表情で「やめなさい!」と叫ぶ。牧羊犬は一人の主人にだけ忠実になつくようになっているそうだ。主人以外はみんな羊泥棒と考えてしまうので、軽々しく頭をなでるなんてことしたら、指の1本でも持ってかれるのだそうだ。改めて感心。

 

 いざ

 さー もちろん富士山にも登ったことがないような人間が列車で3454mまで登るぞー。

 登山列車はものすごい角度で登っていくことになる。先頭車両には車体の真ん中に大きな歯車がついている。線路が3本あって真ん中の線路はこの歯車と噛み合って登っていくのだ。

 列車はゆっくりゆっくり登っていく。列車はほとんどトンネル内を進むことになる。途中トイレ休憩があり展望台もあったりする。体を薄くなっていく空気にならすためだ。

 よくこんなものを作ったものだ。1896年着工1912年完成。16年もかかって。人間のちからは計り知れない。

 

 山頂につく。背の高い建物の一面は鏡張りになっていて壮大な氷河が目の前に広がっているはずだったが、まっしろな雲におおわれているようで、全くなにも見えない。(映画「ミスト」のよう) まー気ままに晴れてくれるまで待っていよう。外に出ることもできるが、なにも見えない状態では危険である。

 周りには氷でできたトンネルや、完成までの様子がわかるような展示がしてある。すべて日本語でもかいてある。バブルの頃の日本人がいっぱいきているようだ。「走らないで!」と日本語で注意書き。

 

 外の気温はマイナス20度。

 

 

  しばらくいるとやたら眠気がしてくる。高山病の症状らしい。

  そんな時、突然その瞬間はやってきた。

  外の雲が流れ出しているのがわかる。これは晴れてきそうだ。外に出て、人が行けるぎりぎりのところまで登ってみる。

  まだ全ての景色は見えないが、晴れていればここは、目の前に大氷河が広がる最先端のスポットのはずだ。

  まるでタイタニックの船主に立つようにしていたら、自分の背中から目前に向かって風が一層強く吹きだした。

  自分の頬を、耳周りを、指の間を、雲がかすめ前方へと向かって飛んでいく。

  いったい何が起こっているのかわからないぐらい。

  何かの力で目の前の雲が、まるで舞台の幕が上がるようにサーと吹き流されていく。

  そして目前に真っ白な大氷河がドーンと飛び込んできた。

  そしてそれを囲むようにアルプスの山々がドーンと姿を現す。

  壮大な自然美に感動で腰が抜けた。