· 

Day36 イタリア

ブリンディジ

 

 さてこれからどっすっかなーと地図を眺める。

気ままな旅であるが、残りの日数を計算しつつ、ちょっと足を延ばしてみよっかなーという気になる。

 イタリアのブーツのかかとの辺りになるブリンディシという港からギリシャへのフェリーが出る。

 

この港には世界中のバックパッカーが集まってフェリーを待っていた。なんせ時刻表は全くあてにならない。港のあちこちに、岸壁から足を投げ出して、暑さの中みんなだらだらフェリーを待っている。

「あっちのポートから出るらしいぞ」と誰かが言い出すと皆がだらだらと歩き出すが、やっぱり違う。

今度は「あっちだ」と言いながらまたみんながだらだらと、、、。

 誰も怒り出すわけでもなく、急ぐわけでもなく、そんな感じでやっとフェリーに乗れたのは夕方になったころだった。

 ギリシャの港パトラまでは18時間の船旅。途中二つの小さな島に寄港しながら行く。この途中の島は、いわゆるいろんなお薬がとびかって年中パーティーやっているような島。

 フェリーの中、立派なベッドのある部屋もあるが、節約のため普通の座席で陣を取る。席はぎゅうぎゅう詰めな感じだが、面白そうなやつがいっぱいいる。

 

 

 

 近くにいた軍服のアメリカ人二人組と仲良くなる。イタリアの基地内で勤務していてホリデーでパーティー島に向かうそうだ。

 マーこいつらが、とにかく かっこよすぎる。若いトム・クルーズをシュとさせた感じ。そちらの傾向はないけど、見ていることドキドキするぐらいのカッコよさで焦った。

 今までの旅程で出会ったアメリカ人みんなに言えることだが、雰囲気がゆったりとしている。動きも喋りも少しけだるそうにかんじる。

 ヘミングウェーの短編小説に出てくるみたいな、スローな、気だるそうな、それがかっこよくて、若いくせして落ち着いていて、マチュアに見える。

 

 いきなり缶のコカ・コーラを渡され飲めという。訳も分からず少し飲むと、もっと飲めという。半分ぐらい飲むと,ジャックダニエルを取り出して、その缶に注ぎ込む。そこでやっと理解したが、やることなすことかっこよすぎる。俺もどっかでやろう。

 

 いい感じに酔って、甲板で波風に打たれながら、彼らの話を聞いた。

 当時は湾岸戦争が停戦を迎えたばかりのころ。彼らもそれに関わっていたわけだ。こんな若い青年が、こんな遠い国まで来て危険と隣り合わせの任務に就かなければならない。アメリカには徴兵制度はないが、どうしても経済的に弱い立場の人間が、このような事情に駆り出すことになる傾向があるらしい。

 いろいろな事情を抱えながら、どうしようもない環境の中で生きている人々が、この世にはごまんといて、むしろそういう人のほうが多いのではないか。

 何も難しいこと考えずに、自分の周りのことだけに気を取られて、それが全てあるかのように生きている。今の世の中知ろうとすれば、どんなことでも知ることができるのに、あまりにも温室の中で生かされている。

 自分が生きる世界はもっと広い世界とつながっていて、無知のまま生きていてはいけない気がする。

 自分の無知さ加減に嫌気がさし、同時にまずはもっといろんなことを知りたいという衝動にかられた。

 

 アメリカ人たちは途中のパーティー島で降りて行った。「お前も一緒に来ないか」と言われたが、ヤバそうだからという理由ではなく、俺なんかが君たちと一緒になって楽しむことなんて許されないのではないかと思って、やめた。

 戦争という中で、想像できないような経験をしてきた君たちなら、思いっきり羽を伸ばしてもいいだろう。